c71の一日

生活の記録

祖母の心配に溺れる、溺れる前に逃げ出す

祖母が施設に入ることになった。会いに行った。
これで、おそらく生きているうちには、会うことはないだろうと思う。
そう思ってみると、気が楽になった。

祖母は戦後の時代から一代を築いてきた人で、だいぶ苦労してお金を稼いだ。
体が利かなくなってからは、他人を使うことにためらいがなかった。
昨日会ってきたら、「心配だ」「あんたのことが心配だ」「その髪を切るわけにはいかないかね」「寒くないかね」と言われ続けた。
文字にすると、優しいようだけれど、心配に押しつぶされて窒息しそうだった。

わたしはちょうどいい。あなたに心配される必要はない。黙っていてくれ。
わたしは寒くない。寒いのはあなただ。わたしは寒くない。心配を止めたいなら止めたらいい。あなたの心配は趣味だ。わたしはあなたの他人を巻き込む趣味につきあうのはいやだ。

と、叫びだしたくて仕方がなかった。

肉をちぎって娘にあたえ、娘は肉をちぎって、その娘に肉をあたえる。

だから、彼女たちは、自分たちの思うように、自分の血を分けた娘たちが行動することが当たり前だと思っている。
そうでないときにはむっとして黙り込み、怒り、すね、泣き落とす。
無言を貫いてから、実は…と語りだし、涙ながらにひしと抱き合う。
わたしは、そういうのはもういらない。
ずっと逃げ出せずに、長い人生を無駄にしてきた。

わたしの祖母と母は、わたしからわたしの人生を盗む泥棒だ。
彼女たちは、自分の輪郭と自分の娘の輪郭がはっきり区別がついていない。
わたしがいやがっていても、いやがるから止める、という発想はない。いやがっていることが目に入らないし、声も聞こえない。
心配をありがたいと思った方が良いだとか、大人げないだとか、そんな言葉が頭に浮かぶけれど、泥棒と一緒にいては、そんな余裕はない。
わたしは、わたしの人生を奪い取られたくない。
だから、わたしは母と祖母の心配の海から逃げ出すのだ。
帰ってきて、心底安心した。
ここはもう、安全な場所なのだ。
わたしは、この場所に守られている。誰の世話をしなくてもいい。
わたしは、もう、会いにいかない。