c71の一日

生活の記録

のっぺらぼうと会話する

自閉スペクトラム症の人が、言葉を言葉通りに受け取るのは、言葉以外に信じるよすががないからだと思う。


わたしは、人の顔を見ないし、表情を見たところで、意味が分からないので、のっぺらぼうと会話しているのと同じだ。
それがどれほど不気味で、気味が悪く、心配なのか、わかってもらえることと思う。
彼らは大勢で、わたしは一人だ。
わたしはのっぺらぼうの一員となるべく、擬態したいと願って、奮闘している。

コミュニケーションを取るにあたって、なにかしら、碇になるものがないと、相手の気持ちがわからない。自分をつなぎ止めておくものがないと、不安と不信に流されて、遠い海の中で溺れてしまう。海の中は暗くて真っ暗で空気がない。空気がないと、肺がつぶれて死んでしまう。


自閉スペクトラム症の人も、他人がどうでも良いわけじゃない人だっている。のっぺらぼうの気持ちや、要望や要求を知りたいと思っている。友だちになりたいとも思っている。でも、自閉スペクトラム症の人は、表情を読んだり、文脈を読んだり、いわゆる空気を読んだりすることができない。
それは、のっぺらぼう界の中では致命的な欠点らしく、それ以外にどんなに美点があっても、評価してもらえない、それ以前の存在だとはじき飛ばされる原因になる。
のっぺらぼうたちは、そういう意味で損をしている。
多様性は美しいのに、ただ空気が読めない、その一点で、排除してしまう。わたしたちの持っている多様性から目を背けている。これは大きな損失だ。わたしたちは、人間以外に対しても深い愛情を持っている。その愛を、彼らは信じることができない様子だ。


だから、自閉スペクトラム症の人に取っては、言われた通り、受け取ることが最善手になる、と言うことなんだと思う。それ以外にできることがないから。言葉に頼れば、もっとも大事なことからは外れないと信じている。なぜなら、言葉は人と人の心を伝えるツールだから。
そのせいで、察しの悪さと言われても、空気が読めないと言われても、一番大事な本質が読めとれないよりは、ましだ、とどこかで学習しているんだと思う。


自閉スペクトラム症の人が一度言われたことをずっと守り通したり、こだわりがあったり、細部を完璧にしたいという欲望や、コントロールしたい気持ちが強すぎて、まわりと軋轢を起こすのも、他人を拒絶したいというよりは、多すぎる刺激から身を守る気持ちの方が強いと思う。


身を守ろうとして、かえって、強い刺激(周りの人の声)が押し寄せてくるのは不幸なことだと思う。


自閉スペクトラム症の人も、思われているよりは一枚板ではないので、こういう風に配慮したら良い、と言う風に一概に言えない。
だから、定型の人にどこまで配慮を求めれば良いのか難しいところだと思う。

でも、逆に、自閉スペクトラム症のわたしにとって、定型の人も、やはり一枚板ではなくて、グラデーションになっていたり、揺らぎがあったりして、私中心に見ると、「定型の人に対するサポート」というのも一概に言えないと思う。
わたしが、考えているのは、わたし中心に世界を見ると、定型の人に対して、わたしがサポートしないといけないことが多いと言うこと。
彼らは、一回で理解しないし、文章や言葉が苦手と来ている。
わたしにとって、人の顔は、のっぺらぼうに等しいので、言葉なくしてはコミュニケーションがとれない。
人は世界の一部なので、それでは困る。
わたしはなるべく引きこもって暮らしているけれど、暮らしていくには、多少、定型の人に譲らないといけない場面も出てくる。


のっぺらぼうたちは、気が利かない。
詳しく話してくれれば良いものを、わかったものだと独り合点して、立ち去っていっては、指示通りにできていないと私をなじる。
でも、わたしからすると、その指示は不十分だったり矛盾に満ちていたりする。
だから、わたしは自分のことが悪くない、と思う。

表面上では、悪いと思っていますと恭順な姿勢を見せることが、のっぺらぼうに対しては有効な対処法だと知っているので、しおらしくそうする。


一般的に見ると、わたしは明るく快活で、礼儀正しく、そして、あるところがすっぽり抜けている。
人の顔を見ないので、不自然だと思われる。のっぺらぼうたちのルールは厳格なのだ。
そして、明文化されていない。仲間以外は追放される仕組みだ。
明るく快活で、礼儀正しい、というのは後天的に学んで、それがあるととてもスムーズに世の中を渡れると知っているから、なんとかしがみついて振り落とされないようにしているけれど、足りないところがあるらしい。
それでも、わたしにはわからないのっぺらぼうたちの世界のルールがあるらしく、王道の人生を歩もうとするとはじき飛ばされる。のっぺらぼうたちは、どうやら排他的らしい。

でも、それにはおかまいなく、わたしも排他的なので、お互い様だ。
わたしはのっぺらぼうたちのことを愛している。
愛らしいと思う。
不完全で、一生懸命で、やぶれかぶれで、矛盾していて。面白い。興味が尽きない。